テーマ②「北極の氷河後退域におけるツンドラ生態系の一次遷移過程に関する研究」

高緯度北極の氷河後退域において、ツンドラの植生は、氷河が後退して出来た裸地に植物が侵入・定着して、時間をかけて徐々に発達してきた。つまり、海側から氷河のある山側に向かって、氷の下から露出した時間の順になっている。氷河に近くなればなるほど最近になって露出した地点というわけだ。おかげで、氷河の近くに生えている植物はかなりまばらで数少なく、海側に近くなるとフカフカの豊かな植生で埋め尽くされている。

フカフカの植生発達帯には様々な種類の植物がひしめき合っているが、氷河近くのまばらな植物たちを観察してみると、ある決まった種ばかりが生えている。それらはまだ見ぬ土地へと生息範囲を拡大する能力に長けたパイオニアである。このパイオニアたちがいち早く侵入して定着し、徐々に土壌と栄養が蓄積されていくことにより、他の種も生育できるような環境に変遷していく。

なぜパイオニアの植物はパイオニアになれるのか?

この謎を解くために、
◎ 植生の発達していないエリアと発達しているエリアでの環境の違い(温度、湿度、栄養、土壌など)
◎ それぞれのエリアで、植物にとって成長の基礎となる光合成がパイオニア種とそうでない種とでどのように異なるのか
◎ それぞれのエリアで、植物にとって成長の基礎となる生元素(窒素、炭素、リン)がどこからきてどのように利用しているのか
を調べ、環境データと植物の光合成との関係から、種による生長の違いを導く環境要因を見つけ、パイオニアになれるメカニズム生態系の一次遷移プロセスを明らかにするべく研究を展開している。

北極では地球温暖化の影響が顕著に現れていると言われている。実際に、ニーオルスンの私たちの調査地にある東ブレッガー氷河は最近急激に後退している。

温暖化は、植物の侵入と定着の過程に変化をもたらす可能性がある。原因は、それぞれの植物の温度に対する応答の違いから来る直接的な変化の場合もあれば、氷河の後退スピードが増加することで植物それぞれの侵入速度の違いから来る変化の場合もあるはずだ。

裸地への植物の侵入と定着メカニズムという純粋な学問的問題に迫ることが第一。しかし、そのメカニズムが明らかになることで、それを ベースとして環境変動に対して植物や生態系がこれからどう応答していくのかを知るべく、予測を立てやすくもなる。このようにして、今どんなことが起きているのか、これからどうなっていくのかを学問的な根拠によって提示できれば、環境問題に対して方策を練っていくことにもつながっていくと考えている。

ナショナルジオグラフィックWeb版に書いたこの調査研究のことはコチラ

調査地:スヴァールバル諸島・ニーオルスン

共同研究者:内田雅己(国立極地研究所)


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